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日野病院組合が目指すもの - 平成19年5月


満開であった桜も風とともに舞い散り、いつしか葉桜となりました。春もなかばを過ぎ、山々は新緑の季節を迎えようとしています。日野病院では年度末、年度始めの忙しさが一段落し、日常の業務が戻ってまいりました。病院長職を拝命してから早10ヶ月が過ぎましたが、この間片時も頭から離れないのが、日野病院組合は今後どのような方向に進むべきかというテーマです。
 振り返りますと、堀江 裕前院長は日野病院組合の目標を「坂の上の雲」とたとえられ、新病院の完成を機に眼科、小児科、脳神経内科常勤医を招聘し、透析室を新設するなど、病院機能の強化に尽力されました。また、療養病床を併設し(16床)、急性期に加え慢性期にも対応できるようにケアミックス体制を導入されました。さらに、地域医療の充実のために、訪問看護ステーションを開設され、江府町老人保健施設あやめの運営受託や黒坂診療所の開設を決定されました。
 その後を引き継がれた浜副隆一前病院長は、各種委員会の増設、リハビリテーション部門の増員、消化器外科の充実などにより病院機能のさらなる強化を図りつつ、「出かける医療・近づいていく医療」を合言葉に、黒坂診療所とあやめの開設を実現され、さらに専任医師による訪問診察の実施、送迎バスと患者送迎車の稼動などを通して地域における日野病院の役割を明確にされました。また、あやめの開設にともない療養病床を廃止し、収益性を確保するため一般病床数を101床から99床へ削減されました。
 このように、日野病院組合はかつての急性期医療の提供を主たる目的とした組織から、地域に密着したさまざまなサービスも合わせて提供できる組織に変化しました。かといって急性期医療の質が落ちたわけではなく、年間手術件数は350件以上を維持しており、また本年から看護配置をより充実させ(13:1から10:1へ)、さらには地域連携強化のため地域連携推進室を新設しました。すなわち、現在の日野病院組合のあり方は、「地域に密着した急性期病院」と表現できるかもしれません。
 ここで問題となるのは、このあり方が経営体としてはどうかという点です。日野病院組合は、新病院の建設に伴い多額の起債償還を抱えたことから「戦艦大和」(帰りの燃料は積んでいないという意味?)と揶揄されてきました。しかし、さまざまな経営努力により経営状況は改善し、昨年度の資金収支は黒字となり、また数年後には収益的収支も黒字になるとの予想です(経営状況については次号の“せせらぎ”で詳しくご報告いたします)。病院の経営破綻が珍しくなくなった昨今、こういった予想が可能であること自体すばらしいことです。しかし、あくまで現在の職員数、診療報酬体系などが変わらないことを前提とした予想であり、楽観はできません。
 少なくとも当面は経営的にも持続可能であることから、今、日野病院組合が目指すべきは「地域に密着した急性期病院」という現在の体制の維持だと私は考えます。しかし、このことは、昨今の病院を取り巻く環境から見て、言うは易く行うは難しです。現体制の維持を困難にする要因は、医療専門職人材の不足と先行き不透明な医療行政です。人材の不足に対しては、新しい人材の確保と同時に、現職員に出来るだけ離職を思い止まってもらう必要があります。最近、マグネットホスピタルという言葉を耳にするようになりました。マグネットホスピタルとは看護師の減少を食い止めるために、ANCC(米国看護証明センター)が質の高い看護サービスを提供している病院をマグネットホスピタルとして認定したことに由来します。現在では、医療専門職人材や患者さんを磁石のようにひきつける魅力的な病院のことを意味します。日野病院組合のマグネットは何かを真剣に考えなければなりません。
 医療行政については、昨年9月に、厚労省が今後の病床のあり方についての考え方を示しました。それによりますと、現行の一般病床はDPCベースの急性期病床と、亜急性期ユニット・回復期リハ病棟に区分されます。日野病院組合は現在の体制ではDPC病院の基準を満たすことは困難です。そうすると、亜急性期ユニットに属することになる訳ですが、厚労省は亜急性期ユニットにいかなる内容を持たせるか、言い換えれば急性期でない『真ん中の機能』をどう明確化するかは今後の大きな課題と述べています。全日本病院協会は従前より『真ん中の機能』を担う病床として地域一般病棟なる概念を提唱しています。地域一般病棟は地域に特化した、医療機関・介護施設のネットワーク機能を主体とした病棟(病院)であり、その特徴は日野病院組合の体制に極めて類似しています(表1)。今後、亜急性期ユニットがどう展開するか、また地域一般病棟が新しい病棟類型になるのかを注目したいと思います。
 日野病院組合の将来に思いを馳せるにつけ頭に浮かぶのは、玉井名誉院長がしばしば口にされる「生き残る種というのは、最も強いものでもなければ、最も知的なものでもない。最も変化に適応できる種が生き残るのだ」というダーウィンの言葉です。疾病構造や人口構成に始まり医療提供体制や診療報酬体系に至るあらゆる変化にすばやく対応できることが、生き残る病院組織の最低限の条件だと確信しています。




表1.「地域一般病棟」の概念
□ 地域一般病棟の役割
  • 地域ケアを中軸としたトータル・ケアサービス
  • 在宅ケアを中心に、利用者の状態を考慮した医療の提供
  • 基軸は地域における医療機関・介護施設とのネットワーク
□ 地域一般病棟の機能
  • リハビリテーション機能、ケアマネージメント機能が必須
  • 急性期病棟からの受け入れ
  • 在宅医療の後方支援機能
  • 24時間体制での対応
□ 必要と考えられる人員基準
  • 医師、看護要員は現行の一般病棟基準以上
  • PT、OT、ST等リハビリテーションスタッフを配置
  • 医療ソーシャルワーカー(MSW)を配置
□ 地域一般病院の入院対応疾患
  • 軽~中等度の肺炎、脳梗塞等、内科疾患
  • 一般的な骨折等、外科疾患
  • 慢性疾患の急性増悪など
(全日病ニュース 第645号)
平成19年5月